
前回の話:
とりあえず、助産師をめざしたのはよかったのだけれど、
その中身は、"とりあえず"では済まされませんでした。

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病院実習では、働く助産師の姿を近くでみて、
仕事ぶりを肌で感じ、直接、アドバイスをもらうことができます。
助産師さん達は、みんなそれぞれ、
お産の時の声かけがホントに上手だったり、
分娩経過の予測がすごく的確だったり、
おっぱいケアのプロフェッショナルだったり、
ものすごく忙しい病棟で、まるでくノ一のように仕事をこなす助産師だったり、
分娩室に入ってくるだけで、お産の流れが変わるようなカリスマ助産師だったり・・
学生のわたしからすると、
ほんとにすごいなぁーと、すべてが憧れの存在でした。(今でもそう)
そんな中、ある助産師さんが、
産後まもないお母さんと何気ないやりとりをしてる姿をみて、「あぁ、わたしもこんな助産師になりたい」と思った出来事があります。
その出来事とは、
産後すぐの初産婦さんが、授乳室で、赤ちゃんのおむつを換えている時でした。
赤ちゃんは、お腹がすいたせいか、
フギャフギャ泣いて、手足をバタバタと動かしていました。
お母さんは、オムツ交換自体は出来ていたけれど、
泣いて動く赤ちゃんをうまく抱っこすることができなくて、焦っている様子でした。
学生の私は、オムツ交換を代わった方がいいのか?
赤ちゃんを抱っこしてあげた方がいいのか?
それとも、お母さんが慣れるために、自分でやる方がいいのか?
一歩離れて、様子をみていました。
そしたらそこに、
ひとりの助産師さんが、ふわりと入ってきました。
そっとやさしく、お母さんの背中に触れて、
「〇〇さん、大丈夫。上手だよー。じゃ、おっぱいあげようか」
と、明るく声をかけました。
たったそれだけで、
お母さんの肩の力が、ふっとゆるんだのが、見た目にも分かりました。
先ほどとはかわって、落ち着いた様子で赤ちゃんを抱っこし、
ゆったりとソファに座って、おっぱいをあげ始めました。
その間、助産師さんは、
特に何をするでもなく、ただ側にいて、にこやかにお母さんを見守っていました。
そして、赤ちゃんがおっぱいを吸いはじめたのを確認すると、
赤ちゃんを支えるお母さんの手の位置をほんの少しだけ調整して、お母さんが楽になるようにクッションを置き、最後に、お母さんの肩に触れて目をあわすと、スッと授乳室から出ていきました。
助産師さんがやったことは、
お母さんの代わりにおむつをかえたり、赤ちゃんを抱っこするわけでもなく、お母さんの肩に触れ、すこしだけ声をかけて、あとは、お母さんを見守っているだけでした。
でも、助産師さんがそこにいるだけで、
お母さんの緊張の糸がゆるみ、「大丈夫」の空気になったのがわかりました。
必要以上の手は出さず、
お母さん自身が「わたし、大丈夫」と思える安心感。
それを与えられる人。
そんな場面をまのあたりにして、
わたしも、そんな助産師になりたいと思いました。
(実習当時の写真)
たいへんな時、困っている時、
誰かのチカラを借りるのは大事なことです。
でも、最終的には、
自分自身の中から「大丈夫」って思えるようになること。
それは、今のわたしにとっても変わらない、大事なポイントです。
なんだかんだいいながら、
無事、助産実習も終え、大学を卒業し、国家試験もクリアすることができました。
晴れて助産師になったわたしが、はじめての就職に選んだ先は・・
